お隣の国、 韓国ではアレクサンダーテクニークに対する熱視線が向けられてい ます。
3月下旬に4日間ATのワークの為、訪韓する機会があり、 日本におけるATの在り方に一石を投じてくれる体験だったので、 このことについて書いていきます。
【韓国スポーツ医学学会での講演】
前回書いた様に、学会での私の講演は、Somatic Movementの学術的な観点と臨床的意義についてでした。
掻い摘んで言うと「ソマティックムーブメントって何に役立つん? 」
ということです。
スポーツ医学会では、「動きの質」 が大きなトピックになっている為、 この演題に対する関心も高いです。
Somatic Movementは、「身体主導の動き」で、 頭がコントロールする動きと対照的なものとして扱われます。
「身体主導」とは、意識して行う動きでもなく、 動きの捉え方を良いものに置き換えることでもない。
むしろ、 身体の作り出す動きを頭の活動が妨げない状態を表します。
だから、注意力を高めようとすることではなく、 Awareness(気付き)が自然発生的に起こる状態。
身体の動きを通じて、頭(意識)が変化していくBottom upの状態です。
だから、頭で理解する類の代物ではない。 体験によってしか共有し難い性質のものだと言う捉え方に、 スポーツ医学の学者さん達と共有する必要がある。
このパラダイムシフトが今回の講演でのメインの目的でした。
ATの活動を具体的に表す為に、Somatic Movementを題材にしている訳で、
その捉え方は、やはり「心と身体の統合機能」 から生じることを共有することになってしまう訳です。
視聴者の中には、Somatic Movementを理解しようと興味を持った学者さん達もいて、 この前提をプレゼンすることで、 期待を裏切られた失望感を持つ反応も散見できました。同時に、 自分自身で体験することが必要であることが共有されると、 新しい感覚を持って捉えようとするエネルギーも感じることができ ました。
【Somatic Movementの生理学的な捉え方】
と言えども、Somatic Movementの学術的な意味や理屈はあるので、そこは、 少し突っ込んでお話させていただきました。
(1)中枢神経系と内臓の関係性
進化の過程で、二足歩行で、 脳がバランスをとって胴体の上に置かれることから、 脳機能が劇的に促進されたこと。つまり、脳の物理的バランスが、 認知や思考のバランスと相関関係が確立したこと。( ATではhead-neck-torso relationship)
(2)身体構造が深部ほど生存に重要なものが備わっていること
発生学的に、内部構造を保護するために、肉付け(言葉通り!) として、筋骨格系や神経系が外側に形成されている。その為、「 深いものに価値がある」という感覚が生じる。 身体の奥から湧き出る動きの方が個体としての生存に関わる。( ATではPrimary Controlの重要性)
(3)深部の小さな動きが大きな力を生む物理的特徴
滑車の例でも、モーメントは、 中心に近いほど小さな動きが大きな力を生む。
例えば、野球選手が投げる動作では、 三角筋などの表面の筋肉を鍛えるより、深部のローテーターカフ の柔軟性をあげた方が、無理なく効果的に動くことができる。( ATではInhibition、表面的な反応を保留する)
(4)(3)に関連して、脳の深部に行けば行くほど、 認知的な結果より、動きを伴う変化(プロセス) を扱う機能になる。(ATではmeans-whereby)
(5)バランスは両極端の変化の察知によって強化される
綱渡りをする人が長い棒を持つ理由は、 両極端の動きが可視化され、 バランスの小さな変化を読み取るように促進されるから。 バランスは、両極端の体験によって強化される。( ATではオポジション)
(6)深く可視化できない「未知」に臨む
頭(意識)では捉えられない深層に心を開いたり、 両極端の世界を体験する事が、 個体としての生存や価値のある活動に導く。(ATでは、 Unknown)
学術的な意味を列挙したらきりがないほどあります。
でも、それは、単なる結果。 ここの所を共有することを目的に講演をさせていただきました。
【人間が生きる原理】
人間が生きる原理、アレクサンダー氏の言葉を使えば、「 Universal Constant in Living」が見える世界とは、自分自身の深さの探求や、 極端な現実(多様性)に触れることから導かれます。
現代社会では、結果を求めて、 自分を見失う傾向が著しく目立つ環境の中で、 自分を豊かに生きるきっかけとして「動き」 を見ることはとても具体性があり、 同時に深掘りすることもできるトピックです。
西欧で生まれ育ったATの世界を東洋である韓国や日本で如何に共 有されるかを探っていくことは、 文化や風土の違う人間同士の共通項で生きる為にはとても大事だと 思わせてくれる体験でした。

次回は、韓国の音楽家達とのワークショップのお話を書きます。